研究概要 |
本年度は、DNA polymerase β(pol β)(-/-)及びpol β(+/+)細胞を用いて、放射線生物学的特徴づけを行なった。コロニー法による放射線感受性、アポトーシス活性(放射線照射後のミトコンドリアの膜電位の低下、caspase-3様の活性、PKC-δ分解活性)、G2ブロック解除のキネテイクス、照射後のクロマチン結合型PCNAの解離動態を調べたところ、両細胞株に有意な差は見い出されなかった。このことは、電離放射線照射後の少なくとも細胞の生死にかかわる現象に対しては、主にPCNA依存型塩基除去修復経路が関与しており、pol β依存型経路の寄与は重要ではないことが、in vivoにおいて初めて示唆された。この結果は、Radiation Research,153,773-780,2000に報告した。 また、新規遺伝子産物としてクローニングされた核蛋白質NP95が、DNA複製複合体に一致して検出されることをクロマチン結合型PCNAを指標にして詳細に検討した。その結果、NP95はPCNAと同じ範疇に属するlate growth-regulated geneであること、S期前半にはクロマチン結合型PCNAと同じ場所に存在するが、中期以降、局在が不一致になり、後期にはほとんど一致しなくなることをつきとめた。このことは、PCNAとは異なり、NP95はDNA複製装置として必須の役割を担ってはいないことを示している。1つの可能性として、S期の中でDNA損傷の修復に関与する可能性が考えられたが、放射線照射後、大きな局在の変化は認められず、homologous recombinationへの関与も否定的であった。この結果は、Experimental Cell Research,263,202-208,2001に報告した。
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