腺様嚢胞癌は他の悪性腫瘍と比較し、インテグリン分子の機能がより選択的であることが予想されている。そこで本研究では本腫瘍の細胞外基質選択的浸潤能がインテグリンによるリガンド認識機構に起因するのか、インテグリンを介した細胞内シグナル伝達機構に起因するのかを明らかにし、さらには機能発現に直接関与するインテグリン関連分子を明らかにすることを目的としている。腺様嚢胞癌に対する対照細胞株として口腔扁平上皮癌細胞を使用し、インテグリンの発現、細胞外基質に対する遊走性を検討したところ、これらの細胞株は各クラスのインテグリン発現レベルに全く差異を認めないにもかかわらず、腺様嚢胞癌細胞株はI型及びIV型コラーゲンに対する遊走性が特異的に強いことが明らかになった。しかし、adhesion assayでは細胞外基質に対する接着能には両細胞群で差は認められなかった。以上より腺様嚢胞癌細胞株ではインテグリンからのシグナル伝達経路に差があると考えられた。そこで各細胞群の細胞外基質接着によるチロシンリン酸化を検討したところ、腺様嚢胞癌細胞株では基質の存在にかかわらず常に数種の蛋白質がリン酸化されていることが明らかになった。この結果は腺様嚢胞癌細胞株の特異的なシグナル伝達機構の存在を示唆するが基質特異的な遊走などの現象を説明できない。そこでインテグリン結合蛋白に注目しスクリーニングを行ったところ、ウロキナーゼレセプター(uPAR)の発現が腺様嚢胞癌細胞株で特異的に高発現していることが明らかになった。uPARは各種のインテグリンと複合体を形成していることが報告されている。現在uPARとインテグリン分子が免疫沈降で共沈することを確認中であるとともにアンチセンスuPARの導入による細胞動態の変化を検討中である。
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