研究概要 |
本研究は,顎関節の機能的調和が顎関節の臨床症状と顎関節X線写真を用いた下顎窩に対する下顎頭の位置(以下,下顎頭位)により評価されることに着目し,歯の咬耗,下顎頭位および顎関節症状の相互の関連について検索することを目的として,顎関節症状がなく顕著な生理的歯の咬耗が広範にみられる中国吉林省農村部居住民71名(軽度咬耗群:30名,高度咬耗群41名)および顎関節症状のある中国吉林省都市部住民36名を対象として,側斜位経頭蓋投影法を行い,得られた顎関節X線規格写真から下顎頭位を定量的に計測した。その結果,1.軽度咬耗群(30名)の下顎頭はすべて左右対称性にやや前方に位置していた。2.高度咬耗群(41名)中26名(63%)の下顎頭位は軽度咬耗群と同じであったが,15名(37%)は片側あるいは両側が後方に偏位していた。3.顎関節症状のある群(36名)の下顎頭は軽度咬耗群,高度咬耗群よりも明らかに片側あるいは両側が後方に偏位する傾向を示した。 以上より,歯の咬耗が顕著に発現する環境においては,下顎頭は左右対称性に中央付近のやや前方位に位置し,歯の咬耗によって下顎頭に偏位がみられても咀嚼系構成要素は生理的に調和し良好な機能を営んでいることが確認された。したがって,環境に順応した生理的な歯の咬耗は咀嚼系の咬合と顎関節の機能的調和を保つ重要な役割を果たしていると考えられた。 なお,この研究での顎関節X線撮影は対象者に研究の内容を十分説明し同意を得て行った。
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