研究概要 |
本研究は,臨床で用いられ破折や変形などを起こした部分床義歯の破面観察から破折の開始部位とその形態的特徴を分析し,有限要素法を用いた応力解析の結果と照らし合わせることにより,破壊の原因となった破壊荷重(咬合力)を数学的に解明する方法を模索した.その結果,現在までに以下のような知見が得られた. 採取した義歯の破折部界面から破折の開始に関与した亀裂の開始部位を同定し,同時に開始部位に存在する微小欠陥の大きさを顕微鏡上で計測した.その結果,特に金属部分の破折が明らかであった多くの症例において,維持装置(クラスプ)そのものか,その近傍で破折の開始点が観察された.これらの試料では,応力解析において最大応力の発生部位と推定された部位と破折の開始部位とが一致していた. その一方で,大連結子部や比較的厚さや幅の大きな小連結子において破折を生じた少数の試料では,破折開始部位は推定された最大応力発生部位とは異なっていた.これらの破断面には微小欠陥が確認可能であった.すなわち,比較的幅や厚さのある大連結子や小連結子で破折した試料では,破壊の直接的な原因として,金属表面の微小な欠陥の存在が大きな影響を与えていた.これらの破折事故においては,破損部の幅や厚さといった形態的な要因よりも微小欠陥の分布状態が破損事故の発生に大きな影響を及ぼしている可能性が示唆された.現在さらに,破壊の直接原因となった荷重(咬合力)を破面形状から推定すべく検討中である. 本研究で得られた基礎的知見をもとに,今後さらに破断面の形状観察から疲労破壊の進行過程を明らかにする予定である.これにより,義歯の理論寿命値を推定するための方法論を明確にして,義歯設計の評価における新しい指針を確立することを目指している.
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