研究概要 |
誤嚥とそれによって引き起こされる肺炎は,要介護高齢者の直接的死因の第1位であり,この予防は超高齢社会に向けての緊急の課題である。歯科補綴学的手法を用いる咀嚼・嚥下障害への対応法は,従来から必要性は認識されているもののいまだ確立されてはいない。本研究は,歯科補綴学の応用による咬合の確立が嚥下機能の維持・改善にもたらす効果をとらえるものである。 本年度はまず,高齢者の嚥下動態と咬合の有無の影響を明確化させるため,咬合が確立している8020達成者を対象として,嚥下機能の一次老化について検討した。 対象者は高齢有歯顎男性8名(平均年齢80.4歳,平均残存歯数26.1歳)とし,対照群として若年有歯顎男性8名(平均年齢25.0歳)を選択した。嚥下造影検査は,10倍希釈バリウム溶液10ml嚥下を3回行い,定性的観察ならびに各種嚥下時間に関する定量的比較を行った。 その結果,高齢有歯顎者において,分割嚥下や嚥下躊躇,嚥下後咽頭残留のある者が有意に多く,さらに,口腔通過時間や咽頭通過時間も高齢有歯顎者で有意に延長していた(p<0.05)。これらのことは,嚥下機能は加齢そのものにより低下する可能性があることを示しており,筋力の減弱に起因しているものと推察された。従って,二次的老化である歯の喪失,咬合の崩壊が嚥下機能に及ぼす影響を検討するための対照群は,同年代の有歯顎者としなければならないことが示され,現状ではほぼ80歳高齢者の6%に過ぎない20歯以上残存している8020達成の研究協力者をより多数見つけるための手段を次年度に向け検討中である。
|