前年度に現有のアーク溶解炉で作製した試料では形状記憶特性が発現せず、その原因が密度の異なるチタンと金との溶融状態での攪拌が不十分であったことと考えられたため、今年度はより攪拌力が大きい磁気浮遊溶解炉での試料作製(約13グラム)を試みた。作製した試料の溶体化組織を光学顕微鏡で観察したところ、マルテンサイト相に特有のレンズとラスの混合組織が観察された。また、圧延後の試料を焼鈍したところ変形が認められ、形状記憶特性が発現していると考えられた。しかし、この合金は熱処理後の焼入れ時に試料表面が著しく酸化、脆化するため、曲げ変形中に容易に破断し形状記憶歪の測定は行えなかった。歪の測定には、試料サイズを大きくして酸化の影響を受けにくくする必要があると考えられた。 以上の結果を踏まえ、現有のアーク溶解炉で前年度(約13グラム)より小さい試料を作製したところ、約2グラムの試料でレンズとラスの混合組織が観察された。しかし、この試料から形状記憶効果の有無を確認できるサイズの試料を作製することはできなかった。また、アーク溶解炉で作製した試料と磁気浮遊溶解炉で作製した試料とでは集合組織に違いがあり、同様の形状記憶効果が発現するという確証は得られなかった。 アーク溶解炉で作製した約2グラムの試料を示差走査熱量計で測定した結果、48、46、44mol%金の組成において、マルテンサイト変態開始温度がそれぞれ、約530、430、365℃、逆変態開始温度がそれぞれ、約560、495、455℃であり、金の含有量を低下させることで変態温度が低下することがわかった。一方、磁気浮遊溶解炉で作製した46mol%金の試料ではマルテンサイト変態開始温度、逆変態開始温度はそれぞれ約480、520℃とアーク溶解炉で作製した試料とは大きく異なっており、集合組織の違い、試料サイズの違いによる熱処理効果の違いなどによる影響と考えられた。
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