(目的)舌接触補助床を作製するにあたり、垂直的顎位の変化が嚥下動態に及ぼす影響を検討する必要がある。そこで、予備研修として垂直的顎位の変化と嚥下動態について知る目的で嚥下造影検査と嚥下圧検査を用い検討を行った。 (対象と方法)個性正常咬合を有する健康成人男子5名(平均年齢28歳)を対象とした。垂直的顎位の挙上は被検者の上下顎歯列の模型を咬合器に付着し、切歯ピンを5mm挙上した位置で即時重合レジン製の全歯牙が接触する顎位挙上板を作成し行った。ビデオ嚥下造影は側面座位にて行い、造影剤(80%硫酸バリウム溶液5ml)を口腔内に保持させ指示によって嚥下させた。嚥下第1期および第2期をデジタルビデオデッキに録画し、コマ送り画像で観察、解析した。嚥下圧検査には感度5.0μV/V/mmHg、X線不透過性のゲールテック社製圧トランスデューサー16CTタイプを使用した。嚥下造影下でセンサー部を第2頚椎の下端の位置を目標に留置し、センサーの方向を咽頭後壁へ向け舌根部の嚥下圧を測定した。 検討した項目: 口腔通過時間、咽頭通過時間、舌根-咽頭後壁接触時間、咽頭後壁の最大収縮波高 嚥下圧最大値:嚥下圧の陽性波の最大値 (結果と考察) 垂直的顎位の挙上によって口腔通過時間が延長を示した。これは、嚥下の際の舌前方部による基点が作用しづらく食塊の咽頭への送り込みが困難になったためと考えられた。咽頭後壁最大波高が上昇を示した。これは、食塊の食道への駆出力に関与する舌根部の後方移動が抑制されていたことを示している。しかし、最大嚥下圧値が低下を示さず、咽頭通過時間は不変であった。これにより、咽頭後壁の前方への動きによって代償されていたと考えられた。垂直的顎位を再構築しなければならないケースは多数歯の欠損を有する高齢患者に多い。高齢者は生理的変化やさまざまな疾患によりこれらの代償機能が働きにくいと予想され、適正な垂直的顎位の付与が必要であると考えられた。
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