歯肉癌などの口腔扁平上皮癌は早期に顎骨に浸潤し骨を吸収する。癌による骨吸収のメカニズムを明らかにするためにこの研究を企画した。実験には当講座で継代中の可移植性NR-Slマウス扁平上皮癌をマウス上顎切歯抜歯窩に移植し、顎骨浸潤癌モデルを作製した。癌の移植はほぼ100%の確立で成功した。このモデルを用いて、癌の増殖ならびに破骨細胞による骨吸収を組織学的に検索した。癌移植3、5、7日目にマウス上顎骨を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定したのち、10%EDTA-2Na溶液で脱灰した。賭殺1時間前にBrdU40mg/kgを腹腔内に投与しラベリングを行っている。パラフィン薄切切片を作製し、HE染色、TRAP染色、BrdU免疫組織化学染色を行った。その結果、癌細胞は抜歯窩内で増殖し、5日目から抜歯窩周囲の歯槽骨は吸収され始めた。歯槽骨頂部では癌細胞が直接骨を吸収しているようであり、抜歯窩底部では癌と骨との間に結合組織、骨膜または残存歯根膜が介在しておりTRAP陽性の破骨細胞による骨吸収像が観察された。癌の増殖は辺縁ほど活発で、中心部では壊死している部分も認められた。また、BrdU陽性細胞は癌組織辺縁の癌細胞や歯槽骨に浸潤する癌細胞に多く認められ、増殖活性の高い癌細胞が骨吸収に何らかの影響を与えていることが考えられた。今後、癌細胞の分泌するサイトカインを同定し、破骨細胞への影響を明らかにしたいと考えている。さらに癌細胞が直接骨を吸収しうるかどうかについても興味を持っている。
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