近年、佐々木らが食道癌患者の切除標本よりStreptococcus anginosusのDNA断片クローンの存在を報告した。この研究はS.anginosusが食道癌の発癌において、慢性炎症の起炎菌として、あるいは発癌課程のプロモーターとして何らかの役割を果たしていることを推測させるものであるが、臓器間でいわゆるDown streamの関係が成立するならば、口腔癌患者や口腔内に異型上皮病変を有する患者にも組織内にその局在が確認されるはずである。また、口腔癌患者のスワブサンプルより検出されたStreptococcus anginosusがデンタルプラーク中に存在するものと同一であることが、ゲノム解析にて証明もされている。 今年度は、口腔癌、異型上皮粘膜、健常口腔粘膜における生検材料、切除標本を検体としてPCR法を用いた遺伝子診断法によりS.anginosus検出率の検討を行った。また口腔癌患者14例(頬粘膜3例、舌4例、下顎歯肉5例、口蓋2例、上顎歯肉2例:全例扁平上皮癌)と異型上皮病変(白板症)患者3例を対象にPCR法によりS.anginosusの検出を試みたところ5例に検出をみた。PCR分析は主としてS.anginosus 16s rebosomal DNAのAmplificationを目的とし行ったが、手技上の問題で精度に欠ける点もあり、今後はさらに検体の採取保存方法を検討し、解析の精度を上げることが課題である。またさらに採取検体数を増やし、将来的には口腔、咽頭、食道の多重癌患者の切除標本を検体としてPCR法を用いた遺伝子診断法によりS.anginosus検出率の検討を行うことを検討中である。
|