今年度の当該研究の主な成果は次の通りであった。1.市販の上顎中切歯用ポリカーボネート製ブラケット(ブラケット幅4.0mm、従来型)を利用し、ブラケット底を0.8mm延長させたr0型、r0型に曲面部を付与したr05型(曲率半径0.5mm)、r10型(同1.0mm)、r20型(同2.0mm)を設計し、試作に成功した。2.繊維体積分率50.0%、直径0.5mmの繊維強化型審美性矯正用ワイヤー(FRPワイヤー)を試験片とし、エラスティックモジュールを用いて各ブラケットに結紮した状態で乾燥条件下での片持ちばり曲げ試験を行ったところ、限界たわみ距離は従来型に対してr0およびr05型で約1.2倍、r10型で約1.3倍、r20型で約1.4倍といずれも有意に増加することがわかった(p<0.01)。3.2.と同様の試験片を用い、湿潤条件下での1.5mmまでの片持ちばりヒステリシス試験を行ったところ、たわみ量1.0mmにおける除荷時荷重値/負荷時荷重値(荷重維持率)は従来型に対してr0型で約1.5倍、r05型で約1.7倍、r10およびr20型で約1.9倍といずれも有意に増加することがわかった(p<0.01)。4.ブラケットとしての実際的な寸法を保つために、従来型のブラケットウィングおよび辺縁を削合することでr05型と同等の辺縁形状を有するブラケットを設計し、試作に成功した(改良型)。5.改良型を用いて前記と同様の試験を行ったところ、従来型に対して限界たわみ量で約1.4倍、荷重維持率で約1.9倍に増加することがわかった。これらの効果は、主としてブラケット辺縁部における結紮による剪断力および小さな曲率での曲げ変形を低減することで達成されたものと考えられた。また改良型に関しては、削合で作製したことによって力点までのスパンが増加したことも破壊の回避にとって有効に作用したものと考えられた。
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