本研究を遂行するにあたり、まず、平成12年度には咀嚼による食塊の性状変化を経時的に捉える手法を確立した。つぎに、実測された刻々と変化する食塊の性状データを基に、口腔内における咀嚼される食塊動態を、コンピュータを用いた計算力学的手法の一種である流体解析によりシミュレートする方法を確立した。これを基に、本年度は、咀嚼中に変化する食塊の性状と、咀嚼運動パターンを入力条件として、咀嚼運動時の大臼歯の変位をシミュレートする方法を確立した。これにより、タッピング等の非機能運動時には見られない、咀嚼運動咬合相において特有の、下顎第一大臼歯の2相性の変位を再現することができた。これにより、咀嚼運動の初期において、硬い性状の食塊を効率良く破壊するために、咀嚼運動パターンと歯の変位が相互に関連性をもって形成され、機能していることが示された。得られた結果より、咀嚼は、形態的条件としての咬合状態と、咀嚼に伴い性状を変化させる食塊からの歯根膜や筋紡錘に対する機械的刺激に影響されてコントロールされる顎運動パターンによって、最適に制御されている可能性が示唆された。今後は、動物実験により、咀嚼機能障害を形成したモデルを作成し、咀嚼筋活動の協調性や顎運動パターンの初期的および長期的変化様相と、咀嚼される食塊の性状変化の様相を検討する予定である。これにより、咀嚼機能障害に伴う不正咬合の発生や固有の顎運動パターン形成のメカニズムを解明する手がかりを得られるものと考える。
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