歯周病は歯周組織と歯槽骨の著しい破壊を伴う、人類においてもっとも感染者が多い慢性疾患の一つであるが、近年、心臓疾患との関与が疑われている。心筋梗塞などの心臓疾患の罹患率において、高血圧、高コレステロール血症など古典的なリスクファクターよりも歯周病は高いリスクファクターであるとの報告もなされている。しかし、その詳しいメカニズムはわかっていない。本研究者は歯周病の原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)が血管内皮に及ぼす影響を探るため、動脈硬化などに深い関わりを持つ二つのケモカインIL-8とMCP-1について臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)をモデルとして用い、1)培養上清中に分泌されるIL-8およびMCP-1の定量 2)IL-8およびMCP-1mRNAの増減 3)P.gingivalisによるIL-8およびMCP-1の分解を検討した。その結果、P.gingivalisはHUVECの分泌するIL-8およびMCP-1を分解すること、それにもかかわらず、P.gingivalisはIL-8およびMCP-1のmRNAの発現を抑制せず、むしろ増加させることから、mRNAレベルでの分泌抑制は行われていないことが示された。さらに、この二つのケモカインはP.gingivalisのプロテアーゼにより分解された。これらのメカニズムがどのように生体内に影響を与えているか不明だが、IL-8およびMCP-1は単球、リンパ球などの走化性ケモカインであり、それらが動脈硬化などに深い関わりがあることが報告されていることより、歯周病は血管内皮の慢性病変になんらかの関わりがある可能性が示された。
|