歯肉上皮細胞の加齢による遺伝子発現変化のDNAチップ分析を行なうにあたり、歯肉の炎症において重要な役割を演じている歯周疾患関連細菌のLipopolysaccharide(LPS)が老化した歯周組織に作用した場合、細胞レベルでのLPSに対する応答性に変化がみられることに着目し、継代培養を行なったヒト歯肉上皮細胞にLPSを作用させ、DNAチップを用いた解析法により遺伝子発現の変化について検討を行なった。 まず、臨床的に炎症のない健全な歯周組織を有する者より歯肉組織を採取し、dispaseで処理した後に上皮層のみを剥離し、serum-freeケラチノサイト培地にてout growthさせ、ヒト培養歯肉上皮細胞を得た。ヒト歯肉上皮細胞は、歯周疾患関連細菌のひとつであるActinobacillus actinomycetemcomitansから抽出したLPSを5μg/ml、24時間作用させたものと作用させないものの2グループをDNAチップ分析に用いた。これらの細胞よりtotal RNAを抽出し、mRNAを精製した。それぞれのmRNAは蛍光色素cy3およびcy5でラベルしてcDNAを合成し、これらのcDNAプローブを混合してGene Expression Microarray(Genome System Inc.)上の8000あまりのDNAとハイブリダイズさせ、レーザースキャナーにて蛍光量を測定するとともに、スキャニングした画像をコンピュータに取り込み、各グループにおける遺伝子発現量の差を解析した。その結果、ヒト歯肉上皮細胞においては、LPS刺激によって転写因子、細胞増殖因子、サイトカイン、接着分子、メタロプロテアーゼなどの遺伝子の発現に変化が認められ、DNAチップ分析が歯周疾患の診断に応用できる可能性が示唆された。 今後、発現の差異が認められた遺伝子についてIn situ Hybridization法や免疫組織化学法を用いて発現を確認し、組織における局在を検討する予定である。
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