【目的】白血病に代表される小児悪性腫瘍は、発症が乳幼児期に集中している。近年では手術療法、放射線療法、化学療法や免疫療法などの進歩により、治療成績は飛躍的に向上し、5年以上の生存例も増加している。しかし、その副作用や成長障害・二次がんの発生などの晩期障害が新たな問題となっている。 今回、我々は抗腫瘍剤が顔面頭蓋の成長におよぼす影響を明らかにするため、臨床において頻用されている2種類の薬剤をラットに作用させ、観察を行った。 【材料と方法】 実験には、生後10日のラット(Wister系rat、体重20g前後)を用いた。動物群は抗腫瘍剤による2群さらに対照群を加えて3群とした。生後11日目および14日目に、それぞれ体重10gあたり0.1mlの割合となるように濃度を調製した抗腫瘍剤を腹腔内に注射し、生後54日目まで飼育した。 (1)CON群:生理食塩水 (2)VCR群:0.05mg/kg硫酸ビンクリスチン(オンコビン【○!R】、塩野義製薬) (3)CPA群:30mg/kgシクロフォスファミド(エンドキサン【○!R】、塩野義製薬) ラットは一定期間飼育後、ペントバルビタール過剰投与で安楽死させ、頭部を直ちに離断し、10%中性ホルマリンで3週間固定した。固定完了後、頭部を流水下で水洗し、考案した頭部規格化固定装置を用い、軟エックス線発生装置(CSM-2型、ソフテックス社)で側方ならびに上下方向の頭部エックス線規格写真を撮影した。頭蓋の成長は、側方および上下方向の頭部エックス線規格写真を大型万能投影機(UP-350、Olympus)を用い5倍に拡大し観察した。有意差検定には、分散分析およびポストホックテストとしてSchffeの方法を使用した。 【結果および考察】 CON群の生後22日目から54日目の間の成長を側方から比較すると、頭蓋部では上下的増大よりも前後的増大の方が著しかった。頭蓋の幅に関しては、前顔面頭蓋にくらべ頬骨弓の幅の増加量が大きかった。下顎についてみると下顎枝長にくらべ下顎骨体長の増加量の方が大きく、頭蓋部と同様に上下的増大よりも前後的増大の方が著しかった。このような傾向はVCR群およびCPA群でも同様に認めた。54日目の所見ではVCR群とCON群との間に差は認めなかったが、CPA群ではすべての項目でCON群にくらべ小さかった。この傾向は22日目の所見では顕著に認められないが、前顔面頭蓋の幅において有意の差が認めた。これは、同部位が、比較的早期に発育する部位であることから考えると、CPA投与後成長の抑制による変化が他の部位にくらべ早期に出現したためではないかと考えている。このようにVCRはCPAにくらべ、頭蓋部の成長発育を抑制していることが示唆された
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