歯周組織の造血系細胞による生体防御機構において、好中球はその食菌作用を中心に効率よく感染防御に働いている。しかし、好中球の過剰な浸潤は活性酸素、酵素群あるいは炎症性サイトカインの放出により、逆に炎症を促進することも知られている。本研究では、活性化好中球から放出される酵素群が、歯肉線維芽細胞上のCD14に対して分解能を有することを突き止め、中でもエラスターゼが中心的役割を演じていることを明らかにした。さらに、LPSによる歯肉線維芽細胞上のCD14刺激に基づくIL-8の産生経路を抑制することを明らかにした。このことから、好中球はその催炎機構を自ら制御できる回路を有していることが示唆された。 早期発症型歯周炎(EOP)の発症・進展に関連性があると考えられているPorphyromonas gingivalis(P.g.)の産生するgingipainはCD14を分解する活性を有することを本研究で明らかにし、さらに、その活性を通して、LPSによる単球上のCD14刺激に基づくTNF-αの産生が、抑制されることがわかった。。すなわち、P.g.はこの機構を利用して、生体による細菌認識機構を逃れ、慢性炎症を持続させていることが示唆された。 これまでの臨床的研究報告から、EOP患者由来末梢血好中球は健常者と比べエラスターゼの産生が亢進しており、また歯周病危険因子である喫煙を習慣とする患者由来の好中球においてもエラスターゼの産生が亢進していることが知られている。これらの報告と、本研究で得られた知見を合わせて考えると、EOP患者の歯周組織の炎症反応は非生理学的に抑制されている可能性があると考えられる。また、EOPにも関連の深いP.g.の強い病原性は、生体による免疫機構を逃れて侵入できる能力にも関連していることが示唆された。
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