平成12年度は研究計画に基づき、まずヒト歯根膜由来細胞(HPDL)を用いて細胞増殖期、分化期におけるbFGF、IGF-I、bFGF+IGF-Iの影響を検討した。その結果、bFGFは単独ではHPDLの増殖を強く促進し、ALPase活性や石灰化ノジュール形成は抑制した。IGF-Iは単独ではHPDLの増殖はわずかしか促進しなかったが、ALPase活性や石灰化ノジュール形成は促進した。一方、bFGF+IGF-IはHPDLの増殖を相乗的に促進し、ALPase活性や石灰化ノジュール形成はbFGF単独の作用と同様に抑制した。これらHPDLの増殖、分化がbFGFとIGF-Iのいかなる細胞内シグナル伝達により制御されているのかを検討する目的でMAPキナーゼの活性化パターンを検討した。その結果、bFGFやbFGF+IGF-Iによる強い増殖促進にはMAPキナーゼの強い持続的な活性化が必須のシグナルとして働いていることが明らかとなった。一方、MAPキナーゼの活性化はHPDLの分化には相関しておらず、他の細胞内シグナル伝達経路の関与が示唆された。次に、ヒト歯根膜由来細胞の不死化細胞株を用いてIGF-I遺伝子導入株の作成を試みたが、継代を重ねることによりIGF-Iの発現量の低下が認められ、安定してIGF-Iを発現する細胞株の樹立には未だ成功していない。IGF-I強発現株に対するbFGFの作用とその細胞内シグナル伝達に関する研究は、方法論的に再考を余儀なくされている。平成13年度は正常細胞(HPDL)でのMAPキナーゼより上流の細胞内シグナル伝達経路の解析を行うとともに、マウスのIGF-I強発現株におけるMAPキナーゼの活性化に関する研究を検討中である。
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