研究概要 |
報告者はこれまでに,歯周病原性菌の付着因子の一つであるF.nucleatum由来のL-arginine感受性赤血球凝集素(A-HA)がヒト細胞への付着・増殖に強く関与し,さらにA-HAに対する歯周病患者血清抗体価の分析から,成人性歯周炎(慢性歯周炎)に関わり,このA-HAに対する免疫療法の可能性を示唆してきた。歯周病の免疫学的治療法は,その安全性から受動免疫療法が有利であると考えられる。そこで本研究では,強力な赤血球凝集因子であるA-HAを標的とした受動免疫の有効性を検討し,以下の結果を得た。 (1)抗A-HAラビットポリクローナル抗体はF.nucleatumとヒト細胞の赤血球との凝集だけでなく他の細菌(C.rectus,P.gingivalis,P.intermedia,E.corrodens)との共凝集も当力価に反応を阻害した。(2)抗A-HAポリクローナル抗体は培養ヒト歯肉線維芽細胞の破砕抗原とクロス反応はしなかった。(3)歯周病患者血清抽出IgG抗体はF.nucleatumとヒト赤血球との凝集および他の細菌との共凝集も阻害した。(4)抗A-HA抗体を有する患者に特異なHLA class II遺伝子型はみられなかった。(5)ヒト末梢血からの分離B細胞中の産生抗体はELISPOT法によりA-HA抗原と反応することが確認された。 F.nucleatum由来A-HAは,抗A-HA抗体のヒト赤血球凝集および他の細菌との共凝集の阻害応答から,細菌の血球凝集および菌の共凝集による細菌バイオフィルムの形成に関与し,抗A-HA抗体が細菌バイオフィルム形成阻害に有効であることが示唆された。また,ヒトB細胞から産生される抗体はA-HA抗原と反応し,同B細胞からのヒト型抗体クローン作製は,その後のA-HAを標的とした単クローン抗体を得るのに有用である。
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