研究概要 |
まず今年度は,imidazolium-2-ylidene(以下,カルベン配位子と記す)を持つ0価ニッケル触媒の調製法の開発を目指し,検討を行った.その結果,カルベン配位子前駆体であるイミダゾリウム塩と安定な2価の塩化ニッケルをブチルリチウムで処理すると,容易に0価ニッケルーカルベン錯体が調製できることを見い出し,その生成を^<13>C-NMRでも確認することができた.一方,すでに我々はニッケルーホスフィン錯体を用いた,シラン存在下の1,3-ジエンとアルデヒドとの分子間カップリング反応の開発に成功しており,この反応によってE-配置のオレフィンを有するホモアリルアルコールが立体選択的に生成することを報告している.カルベン配位子を持つニッケル錯体の反応性を探索する目的で,この1,3-ジエンとアルデヒドとのカップリング反応に,0価ニッケルーカルベン錯体を用いてみた.その結果,これまでのニッケルーホスフィン錯体を用いた反応とは全く異なる反応性を示し,Z-配置のオレフィンを有するホモアリルアルコールが立体選択的に生成することを見い出した.本結果は,カルベン配位子がホスフィン配位子と全く異なる反応性を示すことを意味しており,極めて興味がもたれる.また,Z-配置のオレフィンの生成は,従来までのπ-アリルニッケル中間体経由の反応機構では全く説明できないため,反応機構の観点からも非常に興味がもたれる.来年度以降は反応機構の解明,並びに光学活性カルベン配位子の創製と触媒的不斉合成への適用に力を注いでいく予定である.
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