研究概要 |
容易に購入でき,しかも副作用がない催眠鎮静薬として昭和33年に市場に登場したサリドマイド(1)はそのフレーズとは裏腹に,妊婦が服用すると奇形の子供が生まれるという痛ましい傷跡を残し,昭和37年に姿を消した.そのサリドマイドが今度はエイズ治療薬になる可能性が高いとして再びクローズアップされ,世界各国こぞってサリドマイドの研究を再開した.さて,サリドマイド(1)にはRおよびS体の光学異性体が存在し,R体は催眠鎮静作用を持つが,S体は催奇形性を有する.惨事の原因は,サリドマイドのラセミ体を薬剤として使用したためであると言われ続けてきた.しかし,サリドマイドが生体内ですみやかにラセミ化するということが最近になって報告され,1のエナンチオマー間での生物活性の差に疑問が投げかけられた.このような問題点に答えるべく,ラセミ化の少ないサリドマイドとして,光学活性3-デュウテリオサリドマイド(2)を設計し合成することとした.L-オルニチンをメチルエステルとし,塩基を用いて環化してピペリジン体3を得た.3をN-カルボエトキシフタルイミドでフタロイル化した後,アミド基をBocで保護し N-Boc-2-(2-oxo-piperidin-3-yl)-isoindole-1,3-dione4を得た.続いてLiHMDSでアニオンを形成し,重水を用いて反応をクエンチしN-Boc-3-deuterio-2-(2-oxo-piperidin-3-yl)-isoindole-1,3-dione5を得た.5をトリフルオロ酢酸で脱保護したのち,ルテニウム酸化により目的とする2の合成に成功した.次に.得られた2の緩衝液(37℃,pH7.4)中での安定性を調べた.その結果,2は1と同様に緩衝溶液中でゆっくりとラセミ化(この場合水素交換)するが,その速度は1に比べて5倍以上遅いことがわかった.
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