研究概要 |
海洋産天然物は特異な構造を有し,その上強力な生物活性をもつものが多く,近年新たな医薬品素材として注目を集めている.ところがこれら海洋産天然物は一般に天然からの収量が低いため,詳細な生物活性の解明はおろか,化合物の立体構造(相対配置や絶対配置)すら決定されていないものが多い.そこで本研究課題においては,あえて立体構造が決定されていない海洋産天然物を標的化合物に選び,全合成によって立体構造を明らかにするとともに,供給ルートを確立し,詳しい生物活性の調査を行う.具体的な標的化合物としては,マイコチアゾールとカルキトキシンを選び,全合成研究を行った.マイコチアゾールについてはアルデヒドとシステインを縮合することによってチアゾリジンを得,このものを二酸化マンガンによってチアゾール環へと酸化した後,2度のStilleカップリングによって非共役ジエンを構築した.続いてアセテート由来の不斉アルドール反応によって唯一の不斉点を構築し,Wittig反応,カルバメートを有するフラグメントとのStilleカップリングによってマイコチアゾールの最初の不斉全合成に成功した.また,R体は負の旋光度を示すことも明らかとなった.カルキトキシンについては,キラルアルデヒドの不斉クロチル化と続く脱水酸基化の後,アミド化,立体選択的な1,4-付加,チアゾリン環の構築を経て可能性のあるすべてのカルキトキシンが合成可能な全合成ルートの開発に成功した.更に今回の合成研究によって,天然のカルキトキシンの全立体配置は3R,7R,8S,10R,2'Sであることが明らかとなった.
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