海洋産天然物は特異な構造を有し、その上強力な生物活性をもつものが多く、近年新たな医薬品素材として注目を集めている。ところがこれら海洋産天然物は一般に天然からの収量が低いため、詳細な生物活性の解明はおろか、化合物の立体構造(相対配置や絶対配置)すら決定されていないものが多い。そこで本研究課題においては、あえて立体構造が決定されていない海洋産天然物を標的化合物に選び、全合成によって立体構造を明らかにするとともに、供給ルートを確立し、詳しい生物活性の調査を行列具体的な標的化合物としては、マイコチアゾールとカルキトキシンを選び、全合成研究を行い、昨年度においてはマイコチアゾールとカルキトキシンの全合成を達成し、絶対立体配置の決定を行った。本年度はマイコチアゾールの合成の際に改良した、二酸化マンガンによるチアゾリジンからチアゾールへの変換法の有用性を試すために、チアゾール環含有の環状ペプチドである、シス、シス-セラトスポンガマイドとリングビアベリンAとBの全合成を達成することができた。カルキトキシンについては、生物活性を詳細に検討するため、約100mgを合成し、活性評価を行った。その結果、in vitro試験においては、癌細胞に対し有効な活性を示したが、in vivo試験においては、カルキトキシンがすばやく代謝されるために、毒性の方が強くでてしまうことが判明した。今後はより安定な誘導体の合成が必要と考えられる。
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