L-糖は、いくつかの生物活性物質の活性を左右する重要な構造であることが知られている。しかしながら、その自然界での希少性、ならびに化学合成による供給が十分ではないために医薬化学の分野への適用はほとんどなされていない。そこで、L-糖の実用性の高い化学合成法の開発をめざした。 本年度は、本合成法の鍵反応となるD-糖ラクトン体のアミド化による開環反応と、それに続いて光延反応を利用した5位の反転を伴う再閉環反応を検討した。D-糖の5位の反転は、希少性の高いL-糖を与えるものであるが、いかにして反転を成し遂げるかが重要な課題であった。初めに、D-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース由来の糖ラクトン体を原料として用い、ルイス酸触媒によるヒドロキシアミド化反応を試みた。これまでに糖ラクトン体のヒドロキシアミド化による開環反応は全く検討されていなかったが、トリメチルアルミニウムを共存させることによって、開環体であるヒドロキサム酸誘導体が収率良く得られることを見いだした。続いて光延反応によるこれらヒドロキサム酸誘導体の閉環反応を検討した。これまでヒドロキサム酸誘導体を用いた光延型の閉環反応はアミノ酸由来の4員環化合物について検討されており、アミドの窒素が求核攻撃したラクタム誘導体の生成が報告されている。しかしながら、糖由来の6員環化合物の場合には酸素が攻撃したラクトン誘導体が主として得られた。光延反応においてはSN2型の求核置換反応が進行することが知られており、この場合もそれによって閉環と同時に5位の反転も起きていることも確認された。この結果に基づき、得られたラクトン誘導体を続く加水分解、還元反応に供し、L-イドース、L-アルトロース、L-グロース誘導体に導くことに成功した。以上のような方法によって当初の目的であるL-糖の実用性の高い化学合成法の開発に成功した。
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