研究概要 |
制癌剤への応用が期待されるras-ファルネシル化酵素阻害物質として見い出された(-)-CP-263,114は,生理活性と構造の両面から強い関心が寄せられている天然物の一つであり,ここ数年国内外の全合成研究における興味の対象となっている.我々は,本天然物の全合成を通して有用な医薬品を創製し有機合成化学的側面から制癌研究を推進すると共に,合成化学の発展をもたらす新しい手法と戦略を開発することを目的とし研究を行った. 我々は,(-)-CP-263,114の合成を困難にする特徴的構造を如何に構築していくかという課題に対し,ラジカル反応の持つ特性に着目して全合成研究を進めた.その結果,独自に開発した手法を含む3種のラジカル変換を基軸として(-)-CP-263,114の高度に官能基化された双環性骨格の合成に成功した.この間,まず,先に我々が見い出していたオキシラジカルによるC-H結合活性化を経るオレフィン形成反応の有用性を示した.また,骨格合成の鍵となる独自の手法,すなわちラジカル環開裂と還元的オレフィン形成反応の組み合わせが,CP骨格分子のように高度に官能基化された化合物に対しても適用可能であることを示した.本手法は,従来のイオン反応型環開裂に求められた強力な脱離基への変換や強酸等の使用を必要としない点で極めて有用である.この他,ラジカル特有の高い反応性を利用した環化によってCP骨格の特徴の一つである四級炭素の立体選択的構築も行い得た. 以上,ラジカル反応を合成戦略の基軸とし,制癌剤としての活用が期待される(-)-CP-263,114の骨格合成を達成した.ここに展開した化学は,(-)-CP-263,114の完成を目指す我々の今後の研究のみならず,他の複雑な生理活性天然物の全合成を計画するうえでも重要な知見となる.
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