研究概要 |
著者は,C環部を形成する際に「より安定な三級カチオン部を側鎖α位に有する五員環(プレC環)中間体から,より不安定な二級カチオン部を環内に持つ六員環(C環)中間体への環拡大反応が何故進行するのか?」というステロイド生合成における「最大の謎」を化学的に解明することを目的に研究を展開している.プレC環部上の側鎖の立体化学が環拡大反応の原動力になっているのではないかと考え,本年度は,この仮説の真偽を明確にすることを目的に,プレC環部のモデルとして三級水酸基を有する側鎖部を五員環上に持つtrans-bicyclo[4.3.0]nonane誘導体の合成と様々なルイス酸との反応を試みた.まず,4-pentyn-l-olから数工程を経て直鎖エポキシエンイン化合物を合成し,次にethylene carbonate共存下MeAlCl_2による環化反応を行い8位にβ配置のアセチル基を有するtrans-bicyclo[4.3.0]nonane誘導体を得,さらに側鎖アセチル基をl-hydroxy-l-methylethyl基に変換し,プレC環モデル化合物を得た.五員環α位に三級カチオンを発生させるべく,プレC環モデル化合物をBF_3・OEt_2あるいはTiCl_4で処理したところ,望む環拡大反応は進行せず,アンチペリプラナー型の連続Wagner-Meerwin転位反応が進行したbicyclo[4.3.0]nonene誘導体が主成績体として得られた.分子モデルによる解析や分子力場計算の結果から,8位β配置の側鎖部は,trans-bicyclo[4.3.0]nonane環系から見ると擬equatrial配向に当たり,Wagner-Meerwin転位反応が進行する上で非常に有利な配置を持つことが明らかとなった.現在,このエピマーに当たるα配置の側鎖部を持つプレC環モデル化合物の合成を行い,各種ルイス酸との反応を検討中である.
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