我々はこれまでに、生体内非分解性で粒子径が50mmのポリスチレンナノスフェアー(NS-50)を用いて、種々の検討を行い、微粒子の表面に吸着する血清タンパク質の種類が異なれば、その取り込みに関与するレセプターのみならず、その細胞内動態まで大きく変化することを明らかにしている。そこで本年度は、表面に吸着する血清タンパクの種類を決定づけている因子を解明することを目的として、NS-50と、それとは表面特性の異なるレシチンコーティッドポリスチレンナノスフェアー(LNS-50)を用いて、検討を行った。 まず、微粒子の表面疎水性を評価した結果、微粒子自身の表面疎水性はLNS-50よりもNS-50の方が高いものの、血清中における見かけの表面疎水性は、逆にLNS-50の方が高くなっていることが明らかとなった。一方、両微粒子を静脈内投与したところ、血清中での見かけの表面疎水性がNS-50よりも高いLNS-50の方が顕著に高い血中滞留性を示した。また肝灌流実験において、LNS-50の肝移行にはNS-50の場合と異なり、血清中のオプソニンが表面に吸着することによるレセプター介在性の特異的な取り込み機構はほとんど関与していないことが示唆された。さらに、以前の我々の検討により、NS-50の肝取り込みにオプソニンとして作用することが明らかとなった数種の血清タンパク質の吸着の程度は、NS-50と比べてLNS-50において顕著に低いことが明らかとなった。これらのことから、微粒子の体内動態を決定づけているのは、微粒子表面に吸着するオプソニンの量であることが明らかとなった。 以上のことから、微粒子の表面に吸着するタンパク質の種類は微粒子の物理化学的特性によって支配されており、それを制御することにより、微粒子の体内動態及び細胞内動態を厳密に制御できることが推察された。
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