非ステロイド系抗炎症薬ジクロフェナックは特異体質性の肝障害を惹起することが知られている。ジクロフェナックはアシルグルクロニド生成のみならず酸化代謝によってもハプテンとなりうる代謝物に変換することから、本研究では活性化酵素ならびに標的としてのシトクロムP450の役割について調べた。ジクロフェナックがCYP2C11を不活性化する(標的とする)ことは既に前年度明らかにしてきたが、さらにジクロフェナック代謝経路とCYP不活性化の関連について検討したところ、CYP2C11による5位水酸化反応の過程で同酵素が不活性化することが判明した。ヒトにおいてはCYP3A4が5位水酸化の主要酵素であることからCYP3A4に対する影響を酵素反応速度論的に検討したところ、Ki値は比較的大きいものの、ジクロフェナックがCYP3A4の自殺基質となることが判明した。一方、通常主要代謝経路となるCYP2C9による4'位水酸化には影響は認められず、5位水酸化の重要性を支持する結果となった。5位水酸化代謝物の逐次代謝物としてキノン体が同定されているが、毒性との関係ははっきりしていない。本研究ではラットの場合と同様に反応性代謝物は、逐次ではなく、5位水酸化の過程で生じることが明らかになった。このようなジクロフェナックから直接生じるハプテンは、キノン体に比べ量的に寄与が大きいと考えられる。CYP3A4活性は個体差が非常に大きいことから、CYP3A4の高含量・高活性はジクロフェナックの肝毒性においては一つの危険因子になるものと推定できた。このように、代謝性の特異体質の要因を調べるには、個々の代謝酵素と代謝物の対応関係を十分に明らかにする必要があると考えられる。
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