研究概要 |
網膜から遊離され、網膜循環の調節に関与すると考えられる未知弛緩性物質(網膜由来弛緩因子,RDRF)の存在が示唆されているが、その本体ならびに網膜における生理的役割は、ほとんど明らかにされていない。本研究では、RDRFの存在が確認されており大量の組織量を容易に得ることのできるウシの網膜を用いて、RDRFの産生・遊離メカニズム、平滑筋細胞における作用機序、ならびに糖尿病の進行や加齢に伴うRDRF産生・遊離の量的変遷について明らかにすることを目的としている。本年度は、種々の平滑筋収縮薬により収縮させたバイオアッセイ用ウシ気管平滑筋またはラット大動脈平滑筋と、ウシ網膜をco-incubationすることにより生じる弛緩反応の大きさを指標として、RDRFがどの収縮薬の作用に対して抑制効果を示しやすいかを調べた。また、病態生理的意義を明らかにするための予備的データを得るために、ストレプトゾトシン(STZ,80mg/kg i.p.)により糖尿病を誘発させたラットの網膜を用いて、RDRF誘発弛緩の大きさを評価した。実施した研究から得られた成果は次のごとくである。 1.同程度の収縮を誘発する濃度のアセチルコリン、セロトニン、ヒスタミンまたはKClで収縮させたアッセイ用ウシ気管平滑筋とウシ網膜をco-incubationすると、セロトニンで収縮させた標本においてのみ、再現性のある弛緩反応が観察された(55.3±2.7%,n=7)。同様なRDRF誘発弛緩反応は、セロトニンで収縮させたラット大動脈内皮除去標本においても観察された。 2.ラット2匹(眼球4個)から得た網膜組織とセロトニンで収縮させたウシ気管平滑筋とをco-incubationするとウシ網膜と同様な弛緩反応が観察された(46.2±11.0%,n=4)。STZ投与後、12週間経過したラット(血糖値〜500mg/dl)から摘出した網膜組織を用いても、正常と同様なRDRF誘発弛緩が観察された。今後は、RDRFによるセロトニン収縮抑制機序および糖尿病発症からの経過時間とRDRF誘発弛緩の大きさとの関係を明らかにする予定である。
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