研究概要 |
イノシトールリン脂質は細胞内情報伝達物質の産生源として、また、それ自体が細胞骨格の制御や細胞のサバイバルシグナルとしての機能を果たしている。高等動物のホスファチジルイノシトール(PI)は1位にステアリン酸、2位にアラキドン酸(20:4,Δ-5,8,11,14)を有する18:0/20:4のほぼ単一分子種で構成されるが、イノシトールリン脂質が細胞内でうまく機能するためにはPI分子種の単一性を要求するのかもしれない。私はシアドン酸(20:3,Δ-5,11,14)(別名、ポドカルプ酸)が細胞のPIへと効率よく取り込まれ、PI分子種を大幅に改変させることを見出した。そこで、PI分子種と細胞機能との関連を調べるため、今年度は以下の研究を行った。 脂肪酸不飽和化酵素によるシアドン酸の代謝 放射標識アラキドン酸より放射標識シアドン酸を化学合成し、ラット肝ミクロソームの脂肪酸不飽和化酵素による代謝を調べた。その結果、シアドン酸はアラキドン酸へと代謝されないことが明らかになった。 リン脂質アシル化酵素によるシアドン酸の代謝 膜リン脂質へのシアドン酸の取り込みを細胞レベル(HepG2細胞およびSwiss3T3細胞)、および酵素レベルで解析した結果、シアドン酸はアラキドン酸とほぼ等価の脂肪酸として膜リン脂質へとアシル化されることが明らかになった。 2-シアドノイルグリセロールの生理活性と定量方法 カンナビノイド受容体の内在性リガンド、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)との関連より、2位にシアドン酸が結合したモノグリセリドの生物活性を調べた。カンナビノイド受容体を介する細胞内カルシウムイオン濃度の一過性上昇を指標とした場合、このモノグリセリドは2-AGの約15分の1の活性にとどまることを確認した。また、GC-MSおよびHPLCを用いたモノグリセリドの微量分析法を確立した。
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