本年度は昨年度解析したレクチン部位を持つ小胞体シャペロン・カルネキシン(膜貫通ドメインを除去したもの)、およびBipの作用を特に変性タンパク質の再折りたたみという観点から詳細に解析した。カルネキシンおよびBipは昨年と同様に発現・精製した。また、BipのATPase活性化作用を持つSec63pのJドメイン(N末より121-198残基)は、インテインとの融合タンパクとして発現後、DTTにて処理することにより切断・精製した。 カルネキシン存在下、熱処理して変性させた非糖タンパク質はATP+Bipの添加により20%程度であるが再び正常な立体構造に折りたたまれた。さらにこれにJドメインを加えると、この回復の程度は30%に増加した。この際カルネキシンの認識糖構造であるGlc1-Man3を加えても回復は若干(10%)低下するものの認められた。一方、Glc1-Man9構造を持つ糖タンパク質をカルネキシン存在下、熱処理して変性させた場合でも、ATP+Bip+Jドメインの添加により30%程度回復が認められたが、熱処理時にGlc1-Man3を加えてカルネキシンから糖タンパクを解離させた場合、回復はみられなかった。これは糖タンパク質の場合は、糖構造部分によるカルネキシンとの結合が特に重要であることを示唆している。また糖タンパク質を6Mのグアニジン塩酸で処理して変性させた場合は、ATP+Bip+Jドメインを添加しても回復は認められなかったが、ウサギ網状赤血球のライゼート+カルネキシン+ATPを添加した場合は35%の回復が認められた。カルネキシンの代わりにIgGを用いた場合には、回復は認められなかった。 これらのデータは、カルネキシンが新たに合成された未だ正常に折り畳まれていないプリオンタンパク質等の糖タンパク質と素早く結合することにより、これらの基質をfolding-competentな状態に保つこと、さらにBipおよびJドメインを持つタンパク質がこれらの基質を正常な立体構造を取るように折り畳むというスキームを支持するものであった。
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