本研究は、研究代表者が既に明らかにしたフラーレン誘導体の活性酸素消去能に着目し、新たな作用機構に基づくフラーレンの医薬品への応用を検討するものである。以下に本年度の研究実績の概略を説明する。 前年度に明らかにしたように、ポルフィリン錯体ならびにフラーレンを包含するハイブリッド化合物に強いスーパーオキシド消去活性が認められた。しかしながらこの誘導体の活性は、各々の総和でしかなく、当初期待した相乗的な効果は認められなかった。この誘導体はスペーサーが短くポルフィリンとC_<60>分子とが近接して固定された状態のものである。そこでスペーサーの長さを調節して分子内での自由度を増やし、最適化することによる活性の向上を目指した。 まず、スペーサーを介して水溶性ポルフィリン誘導体をC_<60>に導入する化学変換法を検討した。種々検討した結果、ω-bromoalkanal dimethyl acetalをスペーサー中間体に用いることにより、ポルフィリンとはphenol性水酸基のアルキル化、C_<60>とはアゾメチンイリド法により、それぞれスペーサーを結合することに成功した。この合成法は簡便でかつ収率も良好であり一般性の高い手法である。さらに前年度と同様に、ピリジル基の四級化、金属イオンとの錯形成反応を行い、一連の所期の目的化合物を得ることに成功した。現在in vitroでのスーパーオキシド消去活性との構造活性相関を検討中である。 フラーレンとポルフィリンは活性酸素関与の生理活性に関する興味のみならず、光化学的な挙動からも高い関心がもたれている。実際に分子内にスペーサーを介して両者を包含する化合物も合成され興味深い物性結果が得られているが、水溶性誘導体は開発されていなかった。今回合成に成功した化合物は予想通り非常に高い水溶性を有しており、上記の興味も含め種々の生理活性試験に適用可能である。今後検討する予定である。
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