筆者はこれまでに水銀耐性菌Pseudomonas K-62の水銀代謝遺伝子の構造と機能を解析してきたが、今回は、本水銀代謝遺伝子を利用した水銀浄化法の開発を目指した研究を行い、以下の成果を得た。本水銀代謝遺伝子とポリリン酸キナーゼ遺伝子を融合させたプラスミド、pMKB18(pUC119:merR-o/p-merT-merP-merB-ppk)を作成し、大腸菌に形質転換した菌株について、水銀化合物に対する応答を調べ、水銀浄化への利用性を検討した。その結果、pMKB18をもつ菌株においては、対照株に比べて有機水銀、無機水銀に対する耐性がそれぞれ有意に上昇した。また、pMKB18をもつ菌株における水銀蓄積量は、対照株のそれに比べて著しく上昇した。次に、pMKB18をもつ菌について実験室モデル中の水銀浄化活性を調べたところ、培地に残存する水銀量は時間とともに減少することが確認された。以上の結果から、一旦、菌体内に取り込まれた有機水銀がmerB遺伝子にコードされる有機水銀分解酵素により分解されて無機水銀となり、生じた無機水銀がポリリン酸とキレートする形で菌体内に回収されることで、結果的に培地中の水銀残存量が減少することが示された。今後、これらの融合遺伝子を実際の環境に適合する微生物あるいは藻類・植物などに導入し、それらを用いて環境中の水銀化合物の浄化活性を検討する予定である。本研究は、微生物のもつ有用遺伝子を利用した環境浄化の実用化への足がかりになると期待される。
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