本年度研究の目的は1)患者・医師コミュニケーションに関する理論的整理を行うこと、2)これまでに開発した定量的評価法を発展させた会話プロセス評価法を開発すること、3)会話分析の手法を医学教育における会話教育の評価に応用すること、の3点であった。患者・医師コミュニケーションの研究は、これまで会話機能分析・社会学的会話分析・行動心理学的分析・さらに解釈学的分析など様々な理論的背景のもと医学・社会科学などの幅広い分野で発達してきた。それぞれの長所短所を整理したものを小論にまとめた。また、近年問題となっている患者の自己意思決定と会話研究・評価の関連を明確にするため、従来の意思決定論や政治経済的モデルに基く医師・患者関係論を批判的に吟味した。その結果としてグループ意思決定理論と患者中心型面接モデルに基く新しい評価法を提案した。しかし、新規開発した評価法では非言語的情報が評価できないため、さらなる発展が必要である。まずこれまで欧米で進められてきた医療現場における非言語的コミュニケーション研究を総括的に文献検索したが、東西の文化的背景の違いから評価の枠組みを新たに固める必要があるとの認識を得た。なお、非言語的コミュニケーション研究のために、基礎的データを取れるよう京都大学医学部総合診療部に協力を要請している。最後に近年医学部教育に取り入れられてきた構成型客観的面接試験(OSCE)において、患者面接の評価がどの程度信頼性をもって行われているかを、自学の学生実習結果をもとに検討した。その結果、評価者間信頼性が極めて低いことが明らかとなった。今後評価者に対する教育・訓練が必要であることが強く示唆された。今年度の研究を踏まえ、次年度(最終年度)では非言語的コミュニケーションの評価システムを完成させ、これを応用した教育評価のあり方の検討を進めたい。
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