本年度は以下の3テーマの研究をおこなった。 DRD(HPD)の疑いのある患者一家系について、血液から単離した単核球をPHAで刺激して培養し、GCH1のmRNA量を正常者のものと比較した。その結果mRNA量は通常の約半分にまで減少しており、さらにmRNA上のポリモルフィズムを用いた発現量の比較から、片側の対立遺伝子由来のmRNAが極端に減少していることを明らかにした。よってこの患者では、GCH1遺伝子上のある領域の変異が発現制御にシスに働き、その結果mRNA量が減少したことが強く示唆された。また変異側のmRNAもわずかながら検出できることから、GCH1遺伝子座が大きく欠失しているとは考えにくい。そのためGCH1上に必ず変異が見つかるものと確信し、来年度はこの患者の全塩基配列を決定する。 BACを利用した転写アッセイ系の条件検討をおこなったところ、BAC-DNAの扱い、適切な培養細胞の選択および細胞への導入効率の点で、大量のコンストラクトを作製しそれぞれ導入するのは難しいことが判明した。またヒトゲノムプロジェクトがほぼ完了しGCH1領域の全塩基配列も98%解読されているため、患者の塩基配列を決定して先に変異を探索した方が効率的である。そこである程度変異領域を絞ってからBACに変異配列を挿入して転写量測定を行う方法に変更する。来年度は導入効率を上げる方法を検討しつつ平行して塩基配列決定を行う。 既存の系を利用したGCH1遺伝子プロモータアッセイでは、リポ多糖(LPS)によって発現誘導される配列がGCH1遺伝子上に存在することが確かとなった。LPSは炎症反応を引き起こす物質で、またGCH1は一酸化窒素(NO)合成を介して免疫系を活性化させるため、LPSによる免疫活性化の機構を明らかにする上で興味深い。来年度さらにエンハンサー配列の同定を進める。
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