研究概要 |
血液脳脊髄液関門に発現しているトランスポーターの発遺伝子現系の構築と機能解析について、いくつかの研究成果が得られた。昨年度、血液脳関門・血液脳脊髄液関門に発現される有機アニオントランスポーターの遺伝子発現系を作成し、阻害剤の特異性を明らかにした。また、血液脳関門からの排出における有機アニオントランスポーター、Oatp2の脳内からの排出を評価できる系を確立した。本年度は、昨年度の阻害剤の選択性を利用して、これまで明らかにされていなかった血液脳脊髄液関門に発現されるβ-lactam系抗生物質の排出輸送機構を明らかにした。バクテリア性髄膜炎治療にもちいる場合には、抗生物質の脳脊髄液での滞留性が非常に重要な要因である。関門における発現機構により、脳脊髄液中から急速に取り除かれる場合には、薬効を発揮するために十分な濃度に達しないことが問題であった。この排出に関わる候補となる既知トランスポーターとして、有機アニオントランスポーターOAT1とOAT3の両トランスポーターが考えられる。Westem blotにより脈絡叢にはOAT1ではなく、OAT3のみが発現していた。また、免疫染色により、我々の仮説通りOAT3が刷子縁膜に発現していることを見出した。OAT3の寄与率をOAT3に対して選択性が向い阻害剤を用いて評価したところ、benzylpenicillin, P-aminohippurateについてはほぼ完全にOAT3のみで説明できるのに対して、更に脂溶性の高い有機アニオンであるestradiol 17β glucuronideに対する寄与率は低いことが明らかになった。脂溶性の高い有機アニオンは別のトランスポーター(OATP)により説明されるものと考えられる。本研究により、血液脳脊髄液関門における水溶性の有機アニオンの排出輸送機構を明らかにすることができた。ヒトOAT3でも、benzylpenicillinを基質とすることを確認済みである。ラット同様、ヒト脈絡叢においてもOAT3が抗生物質の脳脊髄液中からの排出に関与していることが推察される。抗生物質の輸送についてはほぼOAT3のみで説明できることから、今後、ヒト遺伝子発現系を脳内薬物動態の観点からスクリーニングに利用することができるものと考えている。
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