病院内の環境細菌は、環境中で一定の菌数を維持し、医療従事者の手指、器材を介して、あるいは浮遊細菌が患者と接触することにより患者に感染し院内感染を起こす可能性がある。このような菌による院内感染の防止には、病院内の環境中の細菌汚染の状況を的確に把握し、細菌の伝播経路の遮断を行うことが必要である。本年度は、病院内の環境細菌叢(床細菌叢及び浮遊細菌叢)の調査を行い、病院内での環境細菌叢を明らかにした。更に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)について入院患者から得られた臨床分離細菌と環境中から得られた細菌が同一の細菌であるか遺伝子型などを比較した。 浮遊細菌検査における菌数は、病室、廊下、処置室及び外来で比較的多い傾向が見られ、手術室の菌数は、非常に少なかった。検出された細菌の構成比率に差はなく、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌及びグラム陽性桿菌であった。この内、グラム陽性桿菌は粉塵を介して院内に持ち込まれたと思われる土壌中に多く存在する菌種であると考えられた。床細菌検査による菌の検出傾向は、浮遊細菌検査とは異なる結果が得られ、黄色ブドウ球菌及びブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の増加が見られた。更に、環境細菌叢からはレジオネラ属菌は全く認められなかった。 床細菌検査及び浮遊細菌検査から得られたMRSA20株について検討を行った。平成11年と12年で検出菌数に差はなかったが、検出された場所に違いが見られた。さらに、患者から分離された40株を含めた計60株をパルスフィールド電気泳動法で解析した。その結果、今回、環境と患者から得られた菌株のPFGEタイプに関連性を見出すことはできなかった。また、環境中から得られた菌株のPFGEタイプは、時期、場所によって様々であった。
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