本研究は、太陽紫外光の暴露により生じる皮膚障害の機構を明らかにしつつ、それを抑制する化合物の探索を目的としている。近年、皮膚障害発症の分子機構として、紫外線照射により皮膚組織で生成される活性酸素種が注目されており、生体内ラジカル反応から急性および慢性の皮膚疾患を解明しようとする研究が活発に行われている。皮膚の培養細胞を用いた実験から、紫外線照射により細胞中に活性酸素種が発生して蓄積することは確認されている。しかし、生きている動物個体の皮膚中において、紫外線照射により活性酸素種が実際に発生することを検出できるかについてはこれまで研究されてこなかった。そこで今年度は、二年間にわたる実施期間の一年目として、化学発光プローブと高感度カメラを備えた微弱光測定装置を用いて生きたままの動物の皮膚における活性酸素種測定法の確立について検討した。また、水溶性の合成抗酸化化合物について、インビボにおける活性酸素種の消去能を検討し、皮膚疾患の予防と治療への応用を試みた。 まず、化学的に発生させた4種類の活性酸素種についてインビトロで検討したところ、化学発光プローブによる定量的測定が可能であることを明らかにした。次に、生きているマウスの背部皮膚に紫外線を照射して発生する活性酸素種の検出を試み、自発的および誘導的に発生する活性酸素種の検出と画像化に成功し、紫外線の照射時間に依存して活性酸素種の発生は増大することが分かった。さらに、発生する活性酸素種はスーパーオキサイドアニオンおよび一重項酸素であることを同定した。続いて、アスコルビン酸とその安定型プロドラッグであるリン酸エステル体について、インビボにおける活性酸素発生の抑制効果を検討したところ、アスコルビン酸-3-リン酸エステル体が最も有望であることを見出した。これは、インビトロで評価した活性酸素種の消去活性からも支持された。次年度は、皮膚のミトコンドリア電子伝達系における活性酸素種の発生機構について詳細な検討を加える予定である。また、幾つかの天然性抗酸化物質や新規の合成亜鉛錯体について、活性酸素種の消去能や脂質過酸化の抑制効果を評価することを計画している。
|