研究筆頭者は、現在までに(1)現在までに報告されている、主に欧米における着床前遺伝子診断についての倫理的問題を取り上げた先行研究、関連文献を分析し、欧米の生命倫理的視点から当診断技術に対する多様の見解と基本的視座を検討した。(2)日本において、着床前遺伝子診断が容認されるまでの経緯をまとめた。(3)諸外国と日本における生殖に関する自己決定を行うにあたっての意識、社会的背景の格差について検討した。(4)当診断を必要とする保因者夫婦の心理的諸問題とカウンセリングの方法に関する諸外国の先行研究、関連文献を検討した。(5)発症前診断、保因者診断等に内在する問題について検討をした。 以上の文献検討により、着床前遺伝子診断に関しては、各国の社会・倫理的背景を中心として、優生学的問題、遺伝情報管理の問題、知る権利・知らされない権利の問題等があることが明らかになった。 さらに、発症前診断や保因者診断をめぐる意思決定については、頻度の高い遺伝性疾患に対する保因者スクリーニングを受けた一般の人や、発病の危険を抱えた人々を中心にした調査が、欧米を中心に実施されている。ここで明らかになったのは、発症前診断を受けたいという人、または実際に受ける人の数が予想に比べて少ないことである。日本においては、 着床前遺伝子診断に対するイメージ構造と意思決定、態度変化と意思決定に関する調査がされている。遺伝子治療、診断に対する態度は全体的に肯定的であったが、知識が不十分であり、情報の有無が態度を慎重な方向に向ける傾向があることが明らかになった。
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