本研究は、肛門への外部刺激が身体へ及ぼす影響と自然排便を促す援助方法を検討するものであり、本年度は、以下の2点について検討を行った。 1.肛門管への刺激と便意誘発の関係の検討 ヒトの肛門管を材料として用い、肛門管(肛門柱と肛門櫛)の粘膜上皮下の粘膜固有層を電子顕微鏡下で観察し、知覚神経の分布を調べた結果、肛門柱の上皮直下には自由神経終末は網状に、全域にわたって密に存在していた。また、肛門櫛の粘膜固有層には指状の乳頭がたくさん見られ、その基部に自由神経終末が密集していた。したがって、温水洗浄便座を用いて肛門管に刺激を与えることによる便意誘発のメカニズムにはこれらの神経終末が関与していることが推測できる。 2.腹圧を反映する指標の検討 先行研究では、腹圧を反映する指標として膀胱内圧、直腸内圧、食道内圧、腹腔鏡下で測定した腹腔内圧などが用いられていたが、これらの方法はいずれも身体へ与える侵襲が大きい。そこで、腹圧の変化に関わる筋の活動から腹圧を推測できないかと考え、筋電計で導出した筋の活動電位を、腹圧を反映する指標として用いることの妥当性・信頼性について検討した。測定部位は腹圧の変化に関わる筋のうち、最も浅層に位置する外腹斜筋を選択し、表面電極を外腹斜筋の腱が腸骨陵に着く部位より上部の側腹部に、筋の走行に沿って筋腹上に貼付した。一般健康成人6名を対象として筋電図を導出した結果、腹圧をかけることによって筋電図の波形が変化することが視覚的に認められた。また、系時的に、電極を貼り替えて外腹斜筋の等尺性運動を実施しても筋の活動電位に大きな変化は認められなかった。今後さらにデータを増やし再現性について統計的に検討すること、筋の活動電位のレベルが腹圧の強弱を反映しているかについて検討することが必要であるが、腹圧を反映する指標として、筋電計で導出した筋の活動電位を用いることについて検討を重ねていくことは有用であると考えられる。
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