これまでに国内で実施されてきたHIV/AIDS対策及び外国人医療に関する文献調査、国・地方自治体の対応、NGOの活動についてレビューを行った。HIV/AIDS対策及び外国人医療は、地道な努力が積み重ねられてきているものの、未だ偏見や差別の中、適切な保健医療福祉サービスが提供されているとは言い難い。 茨城県内における外国人のHIV/AIDS診療に関する医療機関への質問紙調査については、当初、全医療機関に対する調査を計画していたが、外国人へのHIV/AIDS診療を行っている医療機関は限られているため、関係者からの聞き取り調査を実施した。県内の市町村での対応およびNGO活動については、現在、調査継続中である。 茨城県内市町村における在日外国人登録をしている外国人およびその家族に対する保健、教育分野でのサービスの提供は、改善されてきている。しかしながら、外国人登録をしていない外国人およびその家族については、考慮されていないため、問題点が外国人コミュニティの中で内包されているようである。また、HIV/AIDS医療に関しては、特に外国人登録をしていない患者への対応は、NGOや大使館を通じて医療費の捻出、本国への帰国の手続き等が実施されているが、ひとりの患者が抱える問題が、医療のことのみならず生活全般にかかわるため、対応に苦慮しているところである。茨城県では、つくば保健所において外国人医療相談(英語、タイ語)が実施されている。その相談にあたっているタイ人通訳者を医療機関へ派遣する制度ができたことにより、それまで、HIV陽性告知や本国への帰国の相談等、深刻かつ複雑な内容を伝えるべきときに適切な通訳者の確保が困難であったが、少なくとも、緊急時のタイ語通訳に関しては、改善されてきた経緯がある。長期的な支援体制については今後更に検討、充実が望まれる。 外国人が勤務する事業所等への調査に関しては、現在、事業所側が研究者を敬遠しているような状況にあり、調査の進展を望めないため、来年度の課題としたい。 外国人の本国のHIV/AIDS対策の現状を把握し、相互の関係構築に努める点については、ブラジルのリオデジャネイロ、サンパウロ、ブラジリア(保健省)を訪問し、国、州、市レベルの対策およびNGO活動について情報収集した。世界のモデルと言われるブラジルのHIV/AIDS対策と呼ばれる要因には次のようなことが考えられる。(1)AIDS治療薬を国が無料提供(全てのブラジル国民は、医療を無料で受ける事が出来る)、(2)AIDS治療薬の大半を国内生産することで、医療費削減に成功、(3)疫学、検査、治療の情報システム、(4)大規模なキャンペーンを含む予防教育、(5)NGO活動の充実。これらの内容については、厚生科学研究「HIV感染症の医療体制に関する研究班」による「第4回HIV/AIDS患者支援通訳養成セミナー」にて報告した。日本国内における日系ブラジル人をはじめとする中南米出身者への対応についても特に通訳派遣制度の充実が望まれる。
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