東南アジアに位置するラオスの農柳地域では出産後「Yu-kham」と呼ばれる、看護ケアに関わる慣習が現在でも広く一般に行われている。この習俗は、産後に母体を保温する、食物の種類を制限する、伝統的な薬を飲むなどであることが申請者の先行研究により、確認されている。また、申請者自身によるタイ山岳民族リスの産育慣習にも、産後のケアにおいて身体を温めるため目的で薬湯を使うサウナがあることがわかっている。 本年度は、その他のアジア諸地域の出産・育児に関する伝統慣習、特に産後の慣習について文献収集を行い、先行研究について知見の整理を行った。その結果、カンボジア・インドなど、かなりの地域において同様な慣習が存在し、また産後に身体を温める習慣があることも理解された。さらにわが国においては、沖縄において「ジール」というかなり似通った慣習があることがわかった。 その上で、本年はタイでの申請者自身の先行研究をもとに、山岳民族リスの村における産後の伝統的慣習の存在(ナツフェと呼ばれる)とその変容の把握を目的として調査を行なった。対象は、タイ北部の山岳民族リスの村であるナムリン村に済んでいる、出産した経験のある女性10名に産後の伝統的慣習について聞き取りを行った。また、沖縄において、「ジール」を経験したことのある女性およびそれについて知見のある女性、8名に聞き取り調査を行った。 その結果、タイの山岳民族の村では、出産場所は病院へと変化したものの、産後の産育慣習「ナツフェ」についてはほとんどの人が伝統的な方法で行っていることがわかった。沖縄においては、地域によって異なるが、昭和20年代まで「ジール」という産後に身体をあたためる習慣が残っており、その方法は、ラオスの産後の慣習とほぼ似ていることがわかった。
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