研究概要 |
本研究は,「痴呆性老人は環境に適応していく能力をもち,自ら行動する」という仮説をたて,病院または施設に入院,入所した痴呆性老人が,その環境に適応していく過程を明らかにすることを目的とした研究である. 本年度は,二つの老人保健施設において,入所している痴呆性老人法を参加観察した. 1つの施設では,2つの入所棟を観察した上で,環境適応上問題があると考えられた4名の入所者を中心に参加観察を行った.もう一つの施設では,1つの痴呆専用フロアの全体を観察し,入所間もない入所者,及び環境適応上問題があると考えられた4名の入所者を中心に観察した.観察において,痴呆性老人の環境適応の仕方を把握する方法として,相互作用の場面において観察者(研究者)の抱く感覚に着目する方法を試みた. 痴呆が軽度であり,入所による一時的な不適応の場合,老人が環境を良く知り,安心できることと,施設職員側も老人を安心させる方法を理解,実行できることで,痴呆性老人は環境適応できていた.それは,問題行動の消失によって示され,ごく自然な経過としてみられた.研究者や施設職員には,「落ちついた」ととらえられる行動の変化である. 一方,痴呆の程度にかかわらず,不適応状態のままかわらない痴呆性老人もいた.一名は,家族関係上施設職員が簡単には解決できない問題を抱えている入所者であった.また,問題が解決されないまま長期化し,施設職員が問題状況に慣れてしまっていると考えられた場面もあった. 今後,不適応状態が長期的に続く問題についての分析を進めていく予定である.
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