本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかのかかわりをもとうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。 そこで、本研究の目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し、当該現象を明らかにすることである。そして、当該現象について明らかになったことをふまえて、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することが次の目的である。 研究者は、先行研究で老人保健施設に入所している軽度から重度の脳血管性痴呆の高齢者147名(男性41名、女性106名、平均年齢86.3歳)を対象に、参加観察法を用いて人形に対する反応の傾向についての調査を行った。そのうち、当該「人形現象」がみられたのは中等度痴呆が1名(女性)、重度痴呆が11名(男性1名、女性10名)であった。中等度の者は、人形と認知できた上で過去の生活史の回想につながるものが見られたという結果が得られている。 この先行研究をふまえたうえで、平成12年度はアルツハイマー型痴呆者を主な対象とした調査を行った。調査の実施場所は、単科の精神病院にある老人性痴呆療養病棟とそのデイケアで行った。対象者の疾患の特性は、アルツハイマー型痴呆42名、脳血管性痴呆18名、Pick病7名、ビンスワンガー症候群2名であった。年齢は59歳から90歳までであった。この対象のうち、当該「人形現象」がみられたのは8名であった。 当該「人形現象」がみられた脳血管性痴呆者との違いは、脳血管痴呆者は人形をわが子として認知し世話をするのに対し、アルツハイマー型痴呆者の場合は、人形を見て自分自身が子ども時代に退行し自分の親あるいは子供時代を回想することであった。また、脳血管痴呆者は関心が持続するのに対し、アルツハイマー型痴呆の場合は、関心が持続せず一時的になることが特徴として現れた。 平成13年度は、これらの結果を確実なものとするよう症例数を増やし、生育歴や家族歴との関連や疾患ごとの特徴を検証していく予定である。
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