本研究は、愛する人の死という重大な危機に直面した家族がその苦難の中でも希望を持ち続けられるよう支える援助について探究することを目的としている。今年度の目的は、がんのターミナルステージにある人の家族の希望とその意味について探究することであった。今回、対象となったのは、都内の一般病院の緩和ケア病棟に入院中のがんのターミナルステージにある患者の家族で同意の得られた3名。年齢50代〜60代の壮年期にある男性で、妻の病気は子宮がん2名、胃がん1名であった。1名はすでに定年退職しており、2名は自営業であった。家族構成は子どもあり2名、なし1名であった。データ収集はインタビュー法と参加観察法を同時に用い、約1〜3ヶ月間の患者の死亡までの間、回数を重ねて行い、希望の変化を捉えるようにした。インタビューの内容は、現在の患者の状況、家族の心境、家族の希望、現在の支えとなっていること、医療者への期待などを中心に家族の思いを語ってもらった。今回、ケース毎に個別に分析を行ったので、その結果について、S氏を例にとって以下に述べる。S氏の希望は、妻の発病から死まで一貫して[妻が生き続けること]であった。この希望を抱き、実現をめざすことでS氏は積極的にさまざまな努力を試みていた。そこでS氏の希望の意味を考察すると、今を【生きる原動力】としてS氏を支えるものであり、将来に向かう【自己存在のあり方の方向性を示すもの】と解釈された。将来の《妻を失うことへの不安》と今、自分とともに生きている《現に在る妻の存在》の確かさの間で揺らぎながら、S氏は日常の生活の中では気づくことのできない自己存在への気づきが促され、希望がS氏の存在のあり方を方向づけるものとして解釈された。今後、さらに事例を重ねた上で分析を深め、希望を育む援助への示唆を検討する。
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