本研究は、日本の金型産業の競争力要因を以下の五点から分析した。第一に、金型の生産形態そのものである。すなわち、日本においては金型専業メーカーが存在しており金型独立した産業として形成されている点である。専業メーカーが金型を生産する形態は欧米の金型生産にはみられない特徴である。また同時にこれらの専業メーカーが特定の金型に製造を専門化していることも大きな特徴である。第二に、金型専業メーカーがユーザーである量産型機械工業の社会的分業構造に対応したかたちで階層構造を形成している点である。すなわち、ユーザーの階層構造の各層に適合して金型専業メーカーが存在し、金型メーカー間の分業関係も含めて金型産業として柔軟な生産構造を形成しているということである。第三に、金型メーカーへのNC工作機械をはじめとする情報技術の普及が金型製造における基本的技術を決定しているという点である。その時々の最新鋭機械設備が、金型産業が、中小企業性を特徴とするにもかかわらず、普及したことが大手ユーザー内製部門に劣らない金型技術を形成し、また、このことが、ユーザーの要求に応えるための技術的基礎となっている。同時に、この積極的な設備投資は、金型メーカーが製造する金型分野を専門化することの基礎となっている。この製造する金型分野の専門化・特化の過程は当該分野における金型製造技術の精緻化の過程でもある。第四に、ユーザーと金型メーカーとの取引構造である。金型メーカーが技術的優位性をユーザーに対して持つ関係、および、ユーザーからメーカーに対してコストダウン圧力がかかる関係が、日本に独特な取引慣行によって形成されている。この取引構造そのものが、ユーザーが高い品質の金型を低コストで調達できるメカニズムとして機能している。第五に、以上の四点の歴史的発生根拠を、1950年代の機械工業振興臨時措置法から分析することにより明らかにしている。
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