研究概要 |
安静立位時における着力点(以下,足圧中心点)の動揺波形の時系列変化に着目し,各種の数理モデルを足圧中心点動揺解析に適用することにより直立姿勢調節機能の新しい測定評価システムを開発することを目的として研究を行った.平成13年度は,次の2つのモデルを用いてデータ解析を行い,研究成果を国際学会および研究雑誌に発表した. (1)20次の線型自己回帰モデル 姿勢安定性の評価尺度には,1)現在の足圧中心点位置と過去の足圧中心点位置情報との関連性を示す指標(自己回帰係数と自己相関関数との積,すなわち貢献度),2)現在の足圧中心点位置に影響を及ぼす過去の足圧中心点位置情報についての時間遅れの程度を示す指標(自己回帰係数の1次モーメント)を用いた.時間遅れが20ms〜100ms時の貢献度および自己回帰係数1次モーメントは,比較的安定な開足位の安静立位時においても,開眼・閉眼条件間で統計的に有意な差異が認められた.開眼時には,閉眼時に比べてより過去の足圧中心点位置情報が現在の足圧中心点位置の調節に強く関与していることがわかった.この結果は,視覚が過去の身体の揺れに対する迷路感覚の感度を弱め,反応の遅れを生じさせている可能性を示唆していた.自己回帰モデルに基づく2種類のパラメータは,安静立位を維持するための姿勢安定性の評価指標として有効である可能性が示された. (2)フラクショナルブラウン運動モデル 1次元のブラウン運動を拡張したフラクショナルブラウン運動モデルを用いて,安静立位時の足圧中心点動揺特性を解析した.若年健常者を対象とした実験を行い,フラクショナルブラウン運動モデルから得られるパラメータ(拡散係数・ハースト指数)とバランス能力との関連性を解析した.バランス能力の異なる被験群間で,短期の拡散係数とハースト指数は統計的に有意な差異を示した.低バランス群は,約1秒以下の短い時間間隔において姿勢動揺が継続して増大しつづける傾向が高バランス群より強いことがわかった.過去の研究仮説から,この結果は姿勢調節に関わる予測制御的要因の差を反映していることを示唆していた.短時間間隔の拡散係数とハースト指数は,姿勢安定性評価の指標として有効であることが明らかとなった.
|