研究概要 |
我々(Itoh et al.1998)は、低強度のトレーニングでもグルタチオン系による抗酸化能力が増大し、安静時の血中、組織での活性酸素を抑制することをラットを用いて明らかにしている。しかし、ヒトでの持久性トレーニングが抗酸化能力に及ぼす影響についての報告は少ない。本年度は、持久性トレーニングとヒトの抗酸化能力との関係を明らかにするため、抗酸化能力の指標として血中還元型グルタチオン(reduced glutathione:GSH)濃度およびグルタチオンリダクターゼ(glutathione reductase:GR)活性と日常生活における活動量との関係について検討した。被験者は、51-71歳の健康な中高年女性36名で、そのうちの17名は1年以上それぞれの強度、持続時間(週3-6日、30-90分)でウォーキングを行っている者、19名は活動的ではあるが定期的には運動を行っていない者であった。安静時の採血を行う前3週間にわたり、被験者の活動量として毎日の歩数を計測した。その結果、被験者の1日あたりの平均歩数は4000-18000(歩/日)であった。血漿GSH濃度、GR活性は、1日あたりの平均歩数が多い者ほど増大する傾向が見られ、GSH濃度(r=0.576,p<0.001)、GR活性(r=0.546,p<0.001)ともに活動量と有意(r=0.610,p<0.01)な相関が認められた。一方、血漿過酸化脂質濃度については日常の活動レベルとの間に有意な相関が認められなかった。 以上の結果、中高年者における日常の身体活動レベルの増加に伴って血中レベルではグルタチオン系による抗酸化能力が向上することが示唆された。しかし、身体活動レベルは血中の過酸化脂質濃度には影響しなかった。
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