研究概要 |
高強度なトレーニングは、血中や骨格筋の還元型グルタチオン(reduced glutathione:GSH)濃度やグルタチオンリダクターゼ(glutathione reductase:GR)などの抗酸化酵素活性を高める.このように,運動に伴う酸化ストレスの軽減にはグルタチオン系が大きく貢献する.一方,我々(1998)は低強度のトレーニングでもグルタチオン系の亢進により活性酸素種生成が抑制されることをラットで確かめている.しかし,トレーニングが抗酸化能力に及ぼす影響について,ヒトを対象にした研究は少なく,特に高齢者における活動量と抗酸化能力の関係についての報告は見あたらない.今年度は,高齢者の日常生活での活動レベルが抗酸化能力に及ぼす影響を血中GSH濃度,GR活性レベルから明らかにしようとした. 被験者は、「市民健康づくり教室」として開催した運動教室に応募した52-75歳の女性36名(週3回から6回のウォーキングを1年以上継続して行っている17名を含む)とした.活動レベルの目安として被験者の全歩数を,教室参加前3週間,デジタル歩数計(ALNESS 200S、山佐時計計器社製)を用いて計測し,一日の平均歩数が7000歩未満(L;12人),7000歩以上10000歩未満(M;13人),10000歩以上(H;11人)の3グループに分けた。 一般に,加齢に伴って酸化ストレスは増加し,酸化ストレスと防御機構とのバランスが崩れやすくなるため、組織や細胞で障害が引き起こされる可能性が高まると考えられている.本研究の結果,一日の平均歩数が7000歩以上の被験者で血漿GR活性が増大する傾向があり,高強度なトレーニングが困難な高齢者においても,適度な活動レベルが,血管変性の原因に深く関与する血管内での酸化ストレスを軽減する可能性が示唆された.一方,血漿GSH濃度は,一日の平均歩数が10000歩以上で増大する傾向が認められ,日常の高い活動レベルがグルタチオンの主な貯蔵臓器である骨格筋や肝臓におけるGSHの貯蔵量を増大させ,それらが血中に流入して組織や細胞での抗酸化能力を向上させる可能性が示唆された.
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