本研究は、運動スキルの定量的評価法を開発する目的で実施された。具体的には、対象動作を野球の投球動作の上肢運動とし、実際の投球動作をもとにコンピュータ・シミュレーションにより生成した動作と実際の動作を比較することによって、ある評価基準を設けようとするものである。 実際の投球動作を2台の高速度カメラで撮影し、そこで得られた3次元位置データをもとに身体各部位の関節角度などのkinematicsデータを算出した。また、逆動力学により上肢関節のkineticsデータを算出した。現在、求めた関節角度データを初期条件とした上肢7自由度に対する最適化シミュレーションを試行中である。この最適化シミュレーションの目的関数は、各種のkinetics関連変数(ピークトルク、総トルク最小、トルク変化最小等)と投球速度、投球方向、および関節角度の罰則項、から構成されている。これまでのところ、目的関数の各構成要素に対する重み関数を被験者間で同一のものにすると、BFGS公式による準ニュートン法を用いた最適化では、必ずしも良好な結果を得られるとは限らず、初期条件に依存して関節可動域を越える動作も生じた。現在、この原因を精査中で、シミュレーション範囲を狭めた直接探索法をも視野に入れたプログラムの修正を検討している。 プログラム修正後のシミュレーション動作と実際の動作間の比較検討においては、まず、明示的な類似性として投球加速期の各関節角度の相互相関を求める。次に、kineticsの比較として、上肢関節トルク積分値とピークトルク値を求め、両動作間の関連性を検討する。そして、その関連性をもとにした評価尺度の検討および評価チャートの開発へと展開する予定である。
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