運動時の発汗反応に影響する非温熱要因の中でも、筋中の代謝受容器反射、およびそれに伴う血圧上昇による圧受容器反射の影響について検討した。非加温時および体加温時における掌握運動、およびその後の阻血中の発汗反応を検討した。非加温時の発汗活動を視覚化するために、マイクロダイアリシス法によって、抗アセチルコリンエステラーゼであるネオスチグミンを処置して掌握運動時の発汗反応を検討した。 健康な9名の被験者を対象とし、以下のプロトコールをランダムに実施した。(1)上腕部の2分間の阻血、(2)降圧剤(ニトロプルシド)の静脈内注入、(3)2分間の掌握運動および終了5秒前より上腕部を阻血、(4)(3)に加えて運動終了直後にニトロプルシドを静脈内注入。全身加温後にも同様のテストを実施した。 非加温時の上記テストにおいて、非処置部では掌握運動に伴う発汗量の増大は認められなかったが、ネオスチグミン処置部においては、体加温時における掌握運動時の発汗反応と類似した反応が観察された。このことは、非加温時においても運動による非温熱性因子によって、発汗神経は賦活されることが示唆された。また、非加温時および体加温時のいずれの掌握運動後阻血時に実施した降圧剤による平均血圧の安静時レベルへの低下は、この間の発汗反応に影響を与えることはなかった。これより、筋の代謝受容器反射によって賦活されている高いレベルの血圧が発汗反応に直接的に関与している可能性は低いことが推察された。 以上のことより、本手法が発汗反応に対する非温熱性要因を検討するのに適した手法であること、また掌握運動後阻血時の発汗反応は、圧受容器反射が関与している可能性は低く、筋中の代謝受容器反射によって賦活されていることが示唆された。
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