研究概要 |
本研究では、損傷筋上の神経筋接合部(NMJ)の微細構造を電子顕微鏡にて観察し、筋損傷が神経筋接合及び神経終末に及ぼす影響を検討した。実験には生後10週齢のF344系雄ラットを用い、被験筋は長指伸筋とした。生理食塩水に溶解した0.5%塩酸ブピバカイン(BPVC)溶液を筋内に注入し、筋損傷を引き起こした。BPVC投与1,2,3,4週間後に筋を摘出した。摘出した筋を3.5%のグルタールアルデヒドで固定した後、アセチルコリンエステラーゼ染色を施して運動終板(MEP)を同定した。MEPを含んだ筋束を電子顕微鏡用に包埋し、電子顕微鏡観察を行った。さらに縦断凍結切片にコリンエステラーゼ染色と鍍銀染色を施し、光学顕微鏡観察を行った。筋損傷に伴い構造破壊を起こしたNMJでは、神経終末がMEP付近に遊離し、その後、MEPに接地するのが観察された(1週間後)。MEPに再接合した神経終末は分枝し(2週間後)、時間経過に伴い、さらに終末分枝の増加、それぞれの太さも増大した(3週間後)。一方、BPVC投与3,4週間後には、核が縦一列に並んだ筋線維上にNMJが観察された。筋損傷後や除神経後の筋において、核が一列に並ぶ筋線維が頻繁に観察されることから、筋線維の再生に伴い、NMJは再形成される可能性が考えられる。BPVC投与1週間後のNMJでは、軸索終末が筋線維と接合し、一次シナプス間隙を形成しているのが観察された。その後、時間経過に伴い二次シナプス間隙が徐々に形成された。BPVC投与3週間後のNMJでは、正常筋と類似した形態特徴を示すようになった。BPVC投与に伴い損傷した筋線維に観察されるNMJの形態変化は、発生初期の筋細胞における、NMJの形成過程にみられる形態変化と類似していることから、筋損傷に伴い構造が破壊されたNMJは、時間経過に伴い漸次再形成され、筋線維と再接合を起こす可能性が示唆された。
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